回帰年と春分年の違いについて、難しい計算なしの説明を試みます。 国立天文台発行の暦要項2011年版と2012年版を元に、今年の冬至から 来年の冬至にかけての二至二分の日付と、その間隔を表に起こすと、 下表のようになります。 ![]() 二至二分の日付の間隔が一定でないのは、地球の公転軌道が楕円だからです。 特に、冬至から春分までの日数が89日と最も短いのは、毎年1月の上旬 (2012年の場合には1月5日)に、地球が公転軌道の近日点を通過し、この 期間の動きが最も速いためです。このため春分は3月20日になっています。 ここで問題となるのは近日点と二至二分点との関係です。現在は、地球の 近日点通過は毎年1月の上旬ですが、授時暦が作られた13世紀後半には 毎年12月の下旬〜つまり冬至〜のころでした。 天文年鑑2011年版によれば、 回帰年 365日 5h48m45.189s 近点年 365日 6h13m52.568s と、近点年の方が約25分余り長いのです。両者が異なる最大の原因は歳差 で、木星などの惑星による摂動がこれに次ぎます。 このため回帰年で1年経っても地球はまだ近日点まで辿り着かず、辿り着くには更に 平均約25分余りかかります。現在、春分点は近日点の方へ向かって移動中です。 この約25分余りの差が1万年余り積もると半年になります。 そこで、1万年余り未来の二至二分の日付と、その間隔を表に起こすと、 下表のようになります[1]。 ![]() 今度は地球の近日点通過が毎年7月の上旬になり、夏至から秋分までの日数が 89日と最も短くなります。この日付は1年の長さが回帰年になるようにして、 二至二分の日付の平均ができるだけズレないようにしたモデル的なものです。 二至二分の間隔が現在とは異なるので、すべての日付をあわせることはできない のです。 注目して欲しいのは、春分の日付が3月20日ではなく3月23日になっていることです。 これは、冬至から春分までの日数が長くなった以上は当然の変化ですが、1年の長さが 回帰年になるよう暦を作ると[2]、春分の日付が1万年で(今回の計算では)3日後ろに ずれることを意味します。別の言い方をすると春分が廻ってくる間隔は回帰年よりも 1万年あたり(今回の計算では)3日長いのです。回帰年を365.2422日とすると、春分が 廻ってくる間隔つまり春分年は(今回の計算では)365.2425日ということになります。 二至二分の時刻まで計算に含め、より厳密に計算すると西暦1872年時点での春分年は 365.24236日になります。 もともとグレゴリオ暦の1年の長さは回帰年を近似する目的で決められたのではなく、 復活祭の計算の基準となる春分の日付を固定する意図で決められたものです。本稿の 2つの表を比較すれば、回帰年を近似するのはグレゴリオ暦にとって明らかに不都合です。 グレゴリオ暦の精度を論ずるのであれば、春分の廻ってくる間隔(春分年)との誤差も 論じなければ公平とは言えないでしょう。今回の計算でわかるように、グレゴリオ暦は 結構よい線を行っているのです。西暦1872年時点での春分年とグレゴリオ暦との差は 約7千年に1日です。 [1]これはモデル計算です。地球の公転軌道は、近日点の移動だけでなく離心率 の変化も起こり、正しい値は厳密な計算を別途行わなければわかりません。 [2]もし回帰年の長さが変わらないなら、10000年に閏を2422日入れることになります。 |
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回帰年と春分年 補足
前回の記事に対して、「1年の長さが回帰年になるよう暦を作る」というのは「10000年に閏を2422日入れる」 ということですか…というご質問を受けました。これは「もし回帰年の長さが変わらないなら」という前提 で Yes です。なぜ「1年の長さが回帰年になるよう暦を作る」という持って回った言い方になったかというと、 実際には回帰年の長さは変わるからです。つまりグレゴリオ暦の誤差が3000年に1日とか、7000年に1日とか いっても、閏日の1日分の補正を3000年先とか7000年先とか... ...続きを見る |
suchowan's blog 2011/10/28 13:59 |
回帰年と春分年 補足2
前々回の記事では、現代と10000年後の春分を比較して議論をしましたが、 これはこの10000年間の春分年の平均の長さを議論したことになります。 ...続きを見る |
suchowan's blog 2011/10/28 17:11 |
消える小妖精
以前に考えたオマル・ハイヤーム変奏曲は「回帰年と春分年」の ...続きを見る |
suchowan's blog 2011/10/28 18:25 |
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ひまだったので、国立天文台のサイトの暦要項から、1955年から2012年までの春分から春分までの間隔を計算してみました。 |
みよこ 2011/10/23 23:33 |
みよこさん、初コメントありがとうございます。 |
suchowan 2011/10/24 00:24 |
興味深い資料を教えていただき、ありがとうございます。 |
みよこ 2011/10/28 00:48 |
補足の記事の最後にリンクを紹介しましたが、色々なバリエーションがあるようです。 |
suchowan 2011/10/28 14:30 |
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